サスライたちの記録(コジローとミヤモト)

「おや、この2人に興味があるんスか?
 懐かしいッスね、あれはアズマ系クラスが実装されたころの話ッス。
 この2人はあのころのフィルトウィズを風のように駆け抜けていったんスよ・・・
 彼等の活躍でサスライってクラスが今の形に変わったと言っても過言ではないんスよ。
 ちょっとばかし、ログを辿ってみましょうか。僕もこの2人はお気に入りだったんス。
 ・・・なんせ僕の喋り方は『彼』のリスペクトといっても過言ではないッスからねwww」




「まずは2人についての一般的な伝説をここに書いておくッスよ」

・伝説の剣豪達
コジローとミヤモト。最強の剣豪の名前を挙げろと言われればまず出てくるだろう名前だ。
彼等はワンダラーにサスライの技術が伝えられていなかった頃からサスライを名乗っていたという。
彼等には奇怪な言動や行動も目立ったと言う話だが、
えてして新しい事をしようとする人物は奇異に見えるというものである。

・武器の不思議
サスライと言えば刀を使ってこそなのだが、彼等は揃って独特の武器を愛用したと言う。
コジローの武器は槍の如き長さを持ち、「物干し竿」等と嘲笑する輩は多かったという。
ミヤモトもまた、一般的な刀剣ではなくよく使い込んだ棒切れを愛用していたのだとか。
彼等がどうして使いやすい刀ではなく手製の武器を愛用したかは定かではないが、
そういった独特な武器を用いた戦法で連戦連勝を誇ったのだという。

・意外と仲は良かった?
彼等の多くの決闘に関する逸話から仲が悪いのかと思われていたが、
共に行動する事はかなり多かったと言う。
サスライが二人だけのPTは今では考えられないが、
ワンダラーならばその人数でも十分だったのであろうか?
それともそれ以外にのっぴきならない理由があったのだろうか?

・岩龍島
彼等の決闘の伝説が有名な地で、島というにはかなり小さい。
彼等が一対一の真剣勝負をしていた時に乱入してきたネームドがその土地の由来なのだろう。
岩石に包まれた龍は通常の刀で倒すのは困難だったであろうが、彼等の武器は刃物ではなかった。
結局、この乱入のせいで決着がつくことはなく、
未だに一刀と二刀のどちらが上だったかと言う答えは出ていない。

・現在において
彼等の子孫を名乗る者は多く、直系を名乗る流派も多岐にわたっているが、
その多くが偽者だと思われ実際のコジローとミヤモトを知る者は少ないようだ。



「コジローとミヤモト」

アズマ系クラス開放、そんなニュースが流れたのはごく最近の事である。
掲示板での話題もやっと刀が使えるとか、エグゼキューターじゃなくても二刀流できるのかとか、
ニンジャ祭りしようぜとか、とにかくアズマ系クラスの話で持ち切りだった。
最先端を行くゲーマーの俺としてもこのビッグウェーブに乗らないわけにいかず、
一番の友人と呼べるミヤモトとプチサスライ祭りをする事にした。
リアルで会った事もなければメールアドレスも知らないが、
効率なんてお構いなしの二人のノリと勢いで遊ぶのが最高に楽しい。
相手の顔は知らないが、まあ同じぐらいの年齢の男友達のはずだ。

「ちょwwwサスライだらけwww刀高騰しすぎwww買えねぇwww」

「大丈夫wwwちゃんと確保してきたwww俺達サスライのソウルをwww」

「インした時間同じなのに買える筈ねーだろwww売り切れだろwww」

着物の方は【武器防具職人】で自作する事で解決したが、
武器の方は刀そのものはもちろん、鉱石類も高騰して手に入れるのは厳しいのが現実だ。
まあ安物なら手に入らなくはないだろうが、
今持っている武器より遥かに弱いものを手に入れても仕方ない。
・・・だというのにミヤモトは武器を手に入れてきたと言う、
一体何を持ってきたのかと思って受け取ったのは物干し竿である。

「コジローにwwwぴったりの物干し竿www」

ミヤモトが取り出したのは比喩表現一切抜きの物干し竿、
生活用品の物干し竿、平たく言うとただの長い竹竿。
各種アタッチメントでとんでもなく強化はしてあるけど竿である。

(やばい、ネタ被りした)

こちらでミヤモトのために用意していたのは2本一組の木の棒である、
こっちもがっちりアタッチメントで強化はしてあるが。

結局、俺達はサスライは作らないで今までどおり適当に遊んで
適当にイベントやクエストをやるという流れになった。
今まで使っていたウォリアーにも愛着はあったし、
アズマブームで当分まともにプレイできないだろうなという懸念もあった。
とりあえず・・・

「サスライじゃないけど適当にwww新しい狩場特攻www」

「デスペナ集めですねwww分かりますwww」

そのままの流れで、アズマでも人がこなさそうな僻地巡りをして遊んでいたが、
適当に見つけた島でPvPという名のチャンバラごっこをしてたらネームドが乱入してきた。
徘徊型だったのかたまたま出現条件を満たしたのか、
いずれにせよその後のことは単純だった。
例によって俺達には特攻以外の選択肢は無く、回復役もいないけどネームド討伐だ。

結局ミヤモトがプレイヤースキルに物を言わせてなんとか倒したが、
ポーションがぶ飲みしたのにドロップはくっそ不味くて赤字だった、起訴。

*

あれから色々と馬鹿をやって楽しんでいた、
PvPやってみて死んだり、アマノイワの剣術大会に出てみたり、

散歩してるディガー様ご一行に轢かれたりしてた。

サスライごっこは結構面白かった、大体最後に「ウォリアーじゃねぇか!」
という周りからのツッコミが入るが楽しいものは楽しいのだ。
馬鹿をやってるうちに随分有名人になっていたようだが、
だからといってプレイスタイルを変えるわけでもないし、正直割とどうでもいい。

だが、そんないつもの時間は急に終わりを告げられる。


誠に申し訳ありませんが
仮想体感型MMORPG「フィルトウィズ」は
サービスを終了させていただきます。
これまでのご愛顧ありがとうございました。



フィルトウィズが終わってしまうというニュースが流れ、
この楽しい時間もとうとう終わりかと思うと寂しくなった。
フィルトウィズで最初に出会って以来、
ずっと遊んでいた奴との別れが寂しくないわけもないが。

サービス終了した後でも何か別のゲームで遊べるように、
メールアドレスでも交換しようかという話になったのは覚えている。
でもこのまま別れて運が良ければどこかでまた会おう、
くらいでも良いかも知れないっていう話になったんだっけ?

結局アドレス交換をして、最初の一回だけ確認の為に送受信をしてからは連絡を取っていない。
手持無沙汰になってしまったけど他のゲームをやるのも気が乗らないな、
なんて思っていたら突然の最終戦争勃発とかやってられなかった。
避難の途中にいた迷子の手を引っ張って乗り込んだ救命艇が
小型タイプなのは不安だったが、ちゃんと個室があったのは助かった。
一緒に避難してきた迷子の女の子は不安が隠せない様子で心配ではあったが。

フィルトウィズの大ヒットを受けて爆発的に普及したVRコネクタは全ての部屋に設置されていた。
残念ながら用意されていたソフトはストレス軽減のための自然観賞用ソフトなどで、
これでフィルトウィズがプレイできれば文句はないのだが、無いものねだりをしても仕方がない。

何ヶ月か適当な電子漫画やらを読んでいた頃、急にミヤモトからのメールが届いた。
彼も無事に避難できていたのは良かったし、
会ったことが無いとは言え知り合いと話せるのは嬉しかった。
向こうは家族と離れて不安だったとか、避難の際にコネクタも無くしたので、
アドレスを思い出すのに時間が掛かったとかで、まあ色々大変だったらしい。

ミヤモトからのメールは隣の部屋の人が優しいだとか、読んでみた漫画の事だとか、
本当に他愛のないことばかりだったが、それが今の俺には嬉しかった。
ボイスチャットでのやり取りもしようと思えばできたんだろうけど、
俺が持っているミヤモトのフィルトウィズでのイメージを大事にしたいので、
あえて声を聞きたいとは言わなかった。相手もひょっとしたら同じ思いだったのかもしれない。

・・・そんなやりとりが続いたある日、お互いに同じ話題を出した。

『フィルトウィズのインストールドライバが手に入ったから、また一緒にやらないか?』

もう一度、馬鹿やろうぜ!



コジロー 人間/帰ってきた伝説/男性
「我が秘剣の威力をお見せしようwww」

シリアスが5分以上続けられない伝説の剣豪で「真実を知る者」。
コジローに関する伝説には「何これ?改変コピペか何か?」とは本人談。
見上げるほどの長身に陣羽織と袴で伊達男を気取っているがシリアスが持たない。
学生を卒業して社会人として頑張ろうかと言う矢先に地球を脱出する羽目になる。
ゲームの中と違い、リアルなら困ってる人や弱い人は助けるぐらいのマジメさはある。

地球滅亡後のフィルトウィズで親友ミヤモトと再会したのだが・・・?


ミヤモト 人間/蘇った伝説/女性
「・・・ひとりぼっちじゃなくて良かった」

伝説の剣豪で「真実を知る者」。ミヤモトに関する伝説には「・・・これ誰の事?」とは本人談。
黒髪を二つ結びにした『おちびさん』で、古い着流しをきたサスライの少女。
両親共働きで家では一人ぼっちのことが多く、地球脱出の時も親は傍にいなかった。
色々考えた結果、地球滅亡後のフィルトウィズではリアルの姿そっくりのアバターに変更した。
元々は世界規模のVR型格闘ゲームの上位常連で、FWのボス狩りやPvP大会でも大暴れした。
その先読みの腕前は健在で、再会したコジローとは等身大の自分で楽しんでいる。

written by hagane & marsh

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