・EP2序章

あの日、電子の楽園フィルトウィズは崩壊した。

きっかけは「大侵攻」の最中に全世界に鳴り響いたけたたましい進軍ラッパの音。
そして、それと同時に無数に開いた黒い穴。

「キヒヒヒヒ!フィルトウィズのみなさん初めましてっ!!
 私の名前は第七神将イスラフェルと言いまーす!!
 そして・・・ぱんぱかぱーん!おめでとうございまーす!!
 この度、フィルトウィズ第〇〇サーバーが次の私たちの
 『餌場』になることが決定いたしましたー!どんどんぱふぱふー!」


進軍ラッパの後に聞こえた声を合図にしたかのように、
黒い穴からは異形の怪物が無数に出現する。
そして、人間側の種族も魔族も関係なく次々と貪っていく。
混乱の最中、次に世界に聞こえたのはしわがれたようなノイズの入ったギア音声だった。

「皆さん聞こえますか、私は第六魔将バロールです。
 思うことは色々とあるでしょうが人間も魔族も、
 まずは東へ・・・港町シーリンクまで逃げて下さい。
 シーリンクの各所に送迎の潜水球を用意しております。
 ・・・どうか1人でも多く逃げ延びてください。
 そして力のある方がいれば、力のない方を守って頂けますか。
 皆で力を合わせ、この世界を・・・フィルトウィズを守りましょう」


この放送を魔族の罠だと言う者もいたが、
ほとんどの魔族はこれを信じ、人間もそれに合わせた。
大侵攻で傷ついた人間の負傷者を魔族が助け、
それを見た人間が魔族の負傷者を助け、皆で東に向かった。
・・・それでも無事にシュセンを脱出できた者は半分もいなかった。



・海底都市ジャンナにて

「大半の皆さんにとっては初めまして。海底都市ジャンナの長姉アクルと申します。
 私は第六魔将バロールにより作られ、兼ねてから使命を受けていました。
 使命とは浸食者(イロージョナー)からこの世界を防衛すること、
 この海底都市ジャンナもそのために我々の手で作られました。
 ここならしばらくは安全だと思われますので、生き残った人々で方針を定めましょう」


アクルと名乗る軍服の女性はジャンナの広場で演説する。
しかし、人間側の種族と魔族が混じり合ったジャンナの広場は混迷を極め、
多くの質問や怒号が飛び交う。そんな中1人の壮年男性がすっと手を揚げて広場の中心に立った。

「・・・皆聞いてほしい。今まで信じてきたことや自分たちの生活が失われ、
 やり場のない想いを皆抱えていると思う。しかしそんな中にあっても
 命をかけて我々を助けてくれた魔族、それを助け返した人間がいる。
 ここで我々が一つになり、新たなる脅威から世界を守ること・・・
 それが彼らに報いてやれる唯一の方法ではないだろうか。
 どうか新たな脅威に立ち向かう術を知る彼女・・・
 アクルを指導者として受け入れ、共に戦ってほしい」

彼の演説が終わった時、どこからともなく拍手が起こり、
それに呼応するかのようにジャンナの広場は盛大な拍手に包まれた。
この瞬間、アクルを中心とした「ジャンナ同盟」が締結されることになる。

*

「・・・ありがとうございました、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」

「君と同じ、フィルトウィズの団結と平和を望む者だよ。
 名前がないと不都合ならリッターとでも呼んでくれればいい」




・2度目の「大浸食」

人々が1度目の「大浸食」でジャンナに逃れた後も、
魔将とその側近たち、及び一部の人間たちは地上で懸命な抗戦を続けていた。

しかし最初の「大浸食」から3か月後、2度目の「大浸食」によって
港町シーリンクで抵抗を続けていたリザード傭兵隊を中心とした部隊も撤退。
更に安全と思われていた海底都市ジャンナにも
第四神将ハールート配下の浸食者が襲来。

いよいよもって追い込まれた「ジャンナ同盟」は全軍を結集して
各主要都市の奪還に向かうこととなる。
これが失敗すればもはやこの世界は浸食者に蹂躙されるのみ。
世界の命運をかけた「ジャンナ同盟」の戦いが、幕を開けようとしていた。

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