三代目コルザの記録

『三代目コルザ』
ロストソーサル/サスライ/アークメイジ/女性
長い黒髪のサイドテールに紫色の瞳の女性、
ゆったりとしたローブのような着物のような衣服が特徴的で
ミヤモトスタイル(二刀流)のサスライでもある。

基本的には物腰穏やかなのだが横暴なワンダラーに多く接したせいか
ワンダラーをあまりよく思ってはいない。

*

様々な配線が張り巡らされた部屋の中、
その中心の機械の上で横たわっていた人物が起き上がる。

ヘッドセットを外すとそこに書かれている「Filled With Online」の文字に眉根を寄せた。
改めて周りを見渡して鏡を見ると普段見る顔とはまったく違う女性の顔が映っているが……
美人ではあるがどこか作り物めいた顔。

ワンダラー達はどうにも鋳型にはめた様な連中ばかり、
という印象があったが、私は本体まで作り物めいていると感じた。

「完全に予想通りとまでは言わないけど
 …大侵攻
に集中して持ち主が気づかない間に済ませないと」

手早くコートを羽織って建物の外に出ると最初に感じたのは恐ろしいほどの不快感だ。
辺りに鳴り響く大型のアカシックホイールの音はギアフォレスで慣れているが

油のようにべた付く雨、喉に絡みつくような穢れた大気が酷い。

フィルトウィズとは比べ物にならない環境の悪さこそが
あいつ等が私達の世界へと渡ってくる原因なのだろうか。

近くの店舗には値段の安い錠剤が並び、食料品は本物は置かれずに
サンプルや写真が並び34桁は違う値段で販売されている。

「食料がこんな値段でどうやって生活してるのかしら?
 ……まさかポーションで体を補っている?ありえそうね、作り物みたいだし」

周りですれ違う人間はよくよく観察すると外見にある程度の方向性があるようで、
流行り廃りがあって作り変えてるのではないかと感じるくらいだ。

あとは男女に関してはずいぶんとはっきり区分けされているのも特徴的で、
フィルトウィズに比べて徹底的な管理政策を行っているのだろう。

もしかしたら決まった型を外れる事にずいぶん神経質な奴が多かったので
社会政策そのものが極端な区分けをしているのかもしれない。

「裏道もあるのに通っている人間がぜんぜんいない、まさか通る道すらも決められているとか?」

※コルザはフィルトウィズの町中に『悪人』がいない為に気がついていないのだが
実際には決められているのではなく事件を避けるために通らないだけだ。


徹底した規格化を主とした管理社会、それがワンダラーの世界なのだろうか? 

それならあの独自性を持った人間をPTから排除したり、
私達が自由に生活しているのを面倒に感じているのも分かる。

とりあえず不審な行動を咎められる前に出発地点に戻り、
改めてこの世界の魔道機械に体を繋げると自分の体へと戻った。

向こうにいた時間は大した時間ではないのに
すでに大侵攻が終盤へと近づいているようで、遅れてしまったが参戦しなければ。

……
この大侵攻で生き残ったならば、できる事ならばワンダラーの世界、
そう、この世界の事実を仲間達に伝えなければいけない。


あいつ等は英雄ではなく、よりよい環境を奪おうとフィルトウィズにやってくる侵略者なのだと。


*


――ワンダラーの皆様にお知らせがあります
――

他の人間には聴くことができない(ワンダラー達が天の声等と呼んでいる)
放送が響く中で私は戦いの準備を進めていた。

呪文(プログラム)を打ち込んだカードを
ギアの疑似魔法スロットに差し込んでいき、腰に揃えたポーションを確認する。

二本の愛刀はいつも以上の輝きを放っている。


――これより伝説職(レジェンドクラス)の先行解放の為のイベントが行われます――

結局あの事実は誰にも話す事は無かった、
というよりは魔将がやってきて私に告げた事のせいで
そんな暇が無かったというのが事実か。

まさか私が『裏切り者』と呼ばれる事になるとは想定していなかったが。

彼女のどこか哀れみの篭った目に苛立ち
「引きこもってろボッチ」とだけ悪態をついてやったが
恐らく第四魔将デスは気にも留めないだろう。

できるだけ誰も巻き込まぬようにと、街から離れた平原で戦いの準備を済ませているうちに、
こちらの準備が終わったのに合わせたかのようにワンダラーの大軍が見えた。

私一人相手に随分な過剰戦力だなと思ったが、
今の自分の体にみなぎっている力を考えると少ないのかもしれない。


――ソーサルギアの伝説職であるロストソーサル、
   失われた魔法を再現したその使い手の力を感じてください――

お望みどおりに感じさせてやろうではないか
その脅威を刻みつけろ。

アナウンスも終わらないのにワンダラー達のせっかちな先制攻撃。
弾幕のごとく飛んでくる魔法を分解(ディスペル)してやり、飛んでくる矢を切り払う。

片手で集団に石化の雲を打ち込み、解除しようとする奴を見つけて隕石を叩き込む。

近づいてくる近接職の連中には刀にかけた魔法
三大属性を込めた物ではなく、当たった場所から削り飛ばすようなものを見舞ってやる。

馬鹿正直に集まってきた敵を纏めて切り払いつつ、
そこから感染させるかのように状態異常をばら撒いて被害を拡散させる。


―――ロストソーサル 『裏切りの英雄』コルザ討伐戦 開始いたします―――

「ここは……フィルトウィズは……お前らの遊び場じゃない!」

できる事ならば、一人でも多く道連れにしてあげよう。


*


「今回の子はちょっとやりすぎたわね。
 いくらなんでもあっちの世界に手を出したのはマズかったわ」


コルザ一族が第三魔将ユグドラシルから与えられた役割(ロール)は
『禁忌を犯す事』で世界をかき回し刺激して、新たなものを発見する事。
様々な役割を与えられたNPCの中でもっとも制限が薄い。

 
「でもまさかワンダラーの世界まで行くとは色々と驚きッスね!
 これ、だいぶんマズい気がしますが創造主とか黙ってるんでしょうかね?」


「キモの部分はプロジェクトの人間には見られないようにバロールが情報をブロックしてるわ。
 さすがに不祥事だから、細部については誤魔化して報告しておくんですって」


「なるほど、第六魔将殿も肝が据わってるッスねー!
 …ボクは後々その技術を使いたいだけだと思うんスけどねwwww」


あまりに笑い声がうるさかったのか、声の主が蹴飛ばされる。

「余計なおしゃべりはしなくていいわ、ログを追跡されると面倒だし。
 …さーてと、次の子はどんな研究を始めるのかしらね…」


コルザ一族の役割を知っている者は魔将達の他にはいない。
コルザ本人はもちろんのこと、プロジェクトのスタッフでさえ。


*


※コルザ一族の変遷

初代:人間の魔法『魔道工学(ギア)』の開発もとい『呪文(プログラムコード)』の発見 ソーサルギアの実現

二代目:『メタ言語(リアルの会話)』の翻訳
三代目:『ワンダラーの世界』への探求もとい『リアルの体の乗っ取り』
四代目:『始まりの地』の捜索 ロストソーサル転職NPC 存在していた期間がもっとも短く極僅か
五代目:『人工生命の製作』すなわち『ユグドラシル』の模倣


written by hagane & marsh

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